カテゴリー
パナシ

111,よく頑張ったね

「あんたがやらないなら、俺が代わりに行く!」…。ある中学校での話です。

 新年度が始まり、新入生を気持ちよく迎えるために、各担任が準備をしています。
 一学年主任の吉田先生は、小学校との引継ぎで気になった生徒の担任に「川口さん、先生のクラスに入る工藤くん、彼、小学校が全欠なので入学式前に家庭訪問して、お母さんと話しておいた方が良いんじゃないの?」
「いやあ、吉田先生、私が行って話しても来ませんよ。」
「なぜそう言えるの?」
「だって吉田先生、彼は小学校が全欠ですよ。一日も学校に来てないんですよ。そんな生徒が、人が変わったように学校に来るわけないですよ。」
「川口さん、最初からそう決めてかかっちゃだめだよ。今日、午前中にちょっと行って来たら?」
「でも、やることが一杯ありますから…。行ったって無駄ですよ。」…
「川口さん、それでもあんた担任か?自分の目で確かめもせず何を言ってんだい?」
「……」
「じゃあ、俺が代わりに行ってくる。」
「では、お願いします。どうせ無駄ですよ。」
 半ばあきれ顔の吉田先生は工藤君の住所を調べ、お母さんに電話で連絡し、そのまま工藤君宅に向かった。

「学年主任の吉田です。突然の訪問で申し訳ありません。篤史君は、今、家にいますか?」
「はい、まだ寝ています。」
「えっ?お母さん、もう11時ですよ。起こしてくれませんか?」
「あっ、はい。」…
「篤ちゃん、中学校の先生が来たよ。起きて、ねえ、篤ちゃん、起きて!」…
「先生ダメです。起きません。」…
「お母さん、良いですか?私が起こしても良いですか?」
「はい。」…
「篤史君、初めまして、中学校の吉田です。起きてくれますか?」…
「起きてくれますか?」…
「では布団を剥がしますよ。…自分から起きてくれる方がうれしいなあ。」
もぞもぞと起き上がった篤史君
「おう、篤史君、私は吉田、よろしくな。」
「うん」
「昨夜は、何時に寝たんだい?」
「…」
するとお母さんが「3時くらいだと思います。」
「そうか、じゃあ眠いはずだなあ。」
「…」
「でも、篤史君、もうすぐお昼だぞ。」
「…」
「この子は、いつもこうなんです。」
「お母さん、これじゃあだめですよ。昼夜ひっくり返って、TVとゲーム漬け、食べ物はどうしてるんですか?」
「はい、夕食は一緒に食べますが、それ以外はコーラにスナック菓子、カップ麺がほとんどです。私が言っても、言うこと聞かないんです。」
「篤史君、体重は測ったことはあるの?」
「ううん。」と首を横に振る。
「お母さん、もうすぐ入学式だから、制服とか上履き、ジャージとか揃えて準備しておいてくださいよ。」
「はい、でも無理だと思います。」
「お母さん、篤史君が小学校に一度も行っていないということを聞きましたが、…それは篤史君のせいではありませんよ。お母さんを始め、周りの大人のせいですよ。このままの生活続けさせたら病気になって、死んじゃいますよ。」…
「では、どうすれば…?」
「そうですね、まずは起きる、寝る、食べる、学校に行くなどの基本的な生活習慣から変えていきましょうよ。」
「でも、言うこと聞くかしら?」
「早速、明日から7時には起こしてください。篤史君、朝は7時には起きるんだよ。いいかい?」
「…」
「お母さん、中学校に入るという今がチャンスですから、本人のダダに負けず、少し強く当たって行きましょうよ。起きなかったら布団を剝ぐくらいに…。」

 次の日、電話でお母さんと話をすると、7時は無理だったが、9時くらいには起き、午前中は制服を作りに行ったとのこと。
 吉田先生は少し脈を感じました。
 そして、次の日は、また12時くらいまで寝ていたそうです。
「お母さん、お母さんも辛いでしょうから、明日から暫く私が起こしに行きますから…、篤史君にもそう伝えておいてください。」
それから2~3日、朝7時前に吉田先生は工藤君の家に行きました。
「篤史君、時間だよ、起きろ!布団を剥ぐぞ。慣れるまでは辛いけど、すぐ慣れるよ。自分で起きろ!」…
4日目からは、自分で起きてきました。
「篤史君!もう慣れてきたかなあ。入学式に新しい制服着た姿見せてくれよ。友達みんなも喜ぶぞ。」…。

「川口さん、工藤君は入学式には、何とか来れそうな感じがするよ。彼の机や配布物も忘れずに用意しておいてくれ。後は宜しく。」
「吉田先生、ありがとうございました。」
そして、入学式当日、なんとか親子で登校してきました。
「よし、篤史君、よく来た。お母さん、もう大丈夫ですよ。」吉田先生はそんな言葉を掛けました。
 それからは、学校を休むことが無くなりました。
朝ぐずっている時は、吉田先生が迎えに行きました。
また、小学校が全欠だったので、TVやゲームでなんとなく分かっていても、字が正しく読めません。
 吉田先生は、川口先生や学年の先生方と連携し、昼休みと放課後等を使ってひらがなから個人指導を計画しました。ひらがな→カタカナ→漢字へと。
 篤史君は、字が読めるようになり、本の楽しさも分かってきました。
「みんながいる学校は楽しい。字が読めるようになって嬉しい。」という彼、
 体重も普通の中学生の体形になりました。友達も喜びました。
 中でも一番喜んだ友達は、番長級の永野君です。口数は少ないのですが、小6の時は、中学生をカモに割上げしていたという猛者です。
「篤ちゃん!」、「篤ちゃん!」と声をかけてくれる優しい心の持ち主です。

 そして、篤史君は、3年間、風邪などの病気以外に休むことはなく、高校進学も果たしました。
 篤史君もお母さんも吉田先生のことは、お父さんのように感謝し、慕っています。
 吉田先生は「手のかかる生徒をしっかり育ててやるのが教師の役目」その信念でやっていました。吉田先生に出会って、一人の生徒の人生が救われました。
 また、子育てに自信のなかったお母さんにも笑顔が戻ってきました。吉田先生には、本当に感謝です。
 工藤君も本当は学校に行きたかったんでしょうね。
 卒業式の日、校長先生が「工藤君、君は本当によく頑張った。この3年間で9年分のことをやったのだから…、これから先、何があってもやり抜けると思うので自信を持って、高校生活も友達を沢山作って楽しく送ってください。頑張れ!」と、工藤君の手を強く握りしめて話されたそうです。

対話型アニメーションインターネット教材すらら申し込み

無料資料を取り寄せる【Z会プログラミング講座】

創業70年のランドセル専業メーカー【カザマランドセル】

部活動は何に入ろうかな? 恐い先輩のいない所でしょ?  「電車賃迷うところだ1年生」

作成者: パナシ

雑学大好き、何でもやりっぱなしが多い。

「111,よく頑張ったね」への1件の返信

[…] 101,これは良い   102,仕事は人を選ばず  103,吾唯足知  104,近所とは仲良く 105,塩と砂糖を描く  106,最近の田舎   107,適度な甘さ  108,マニュアル言葉  109,+と- 110、ええ奴やんか 111,よく頑張ったね  112,「思い込み」の利用  113,3Vと3S  114,英雄は意図して作る 115,身近な毒物  116,よき若者多し  117,良いと悪い  118,元気と勇気 119,小笑話  120,「遊び」が大事  121,男言葉女言葉と溺愛   122,記憶力  123,なぜ左回りなの?  124,自然体から学ぶ  125,ニホン?ニッポン?  126,読点と句点   127,雷   128,大きいと太い  129,卍の意味は?  130,歯科医院での光景    131,先人に学ぶ  132,アリだったら?  133,かえるのぴょん  134,個人情報保護の陰で  135,これは何?  136,父親像  137,リラックスタイム   138,あの時は   139,ほぼ69cm 140,心の傷  141,食べて大丈夫?  142,界面活性剤  143,村を守る  144,自分の言葉をつかえ  145,蜘蛛の糸  146,家族の支え  147,変わりゆく言葉 […]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です