中学の時の国語の教科書に載っていた金田一京助さんの逸話がずっと心に残っています。知恵を教わったようで子どもながらに「賢い人だなあ!」と感心しました。
私の記憶では、アイヌ語を研究するために樺太(サハリン)に渡った金田一さんは、全くアイヌ語を知らない状態から始めました。
アイヌの子ども達の前で、地面に棒でグルグルなんだかわからない絵を描いて、「なに?」という言葉を先ず聞き取り、その言葉を使って木を指したり、頭を指したりして、次々に単語を覚えていったという話です。
今、詳しく調べてみると金田一京助さんの「心の小道」という本にそのことが載っていました。
(描いた絵は、地面にではなく紙にでした。)
た だ ,私 は ,「 な に ? 」と い う 一 語 が 欲し く な っ た 。そ れ さ え わ か れ ば ,心 の ま ま に ,物を指して,その名を聞くことができるのである。
そこで,ふと思いついて,もう一枚紙をめくって,今度はめちゃくちゃな線をぐるぐる,ぐるぐる引きまわした。
年かさの子が首 を か し げ た 。そ し て ,「 ヘ マ タ ! 」と 叫 ん だ 。す る と ,他 の 子 供 も み な 変 な 顔 を し て ,口 々に ,「 ヘ マ タ ? 」「 ヘ マ タ ? 」「 ヘ マ タ ? 」
う ん ,北 海 道 で「 な に 」と い う こ と を ,「 ヘ マ ン ダ 」と 言 う 。
こ れ だ ,と 思 っ た ら ,ま ず試みようと,身のまわりを見まわして,足もとの小石を拾って,私か ら あべこべに「ヘマタ?」と叫んでやった。驚くべし,群がる子供らが私の手もとへくるくるした目を向けて , 口 々 に 「 ス マ ! 」「 ス マ ! 」 と 叫 ぶ で は な い か 。
北海道で石のことを「シュマ」という 。 し て み る と ,「 ス マ 」 は 石 の こ と で , そ う し て ,「 ヘ マ タ 」 は 、や っ ぱ り 「 な に ? 」 と いうことに違いなさそうだ。そ こ で 勇 気 を 得 て ,も う 一 つ 足 も と の 草 を む し り 取 っ て ,「 ヘ マ タ ? 」と 高 く さ さ げ る と ,子 供 ら は 「 ム ン ! 」「 ム ン ! 」「 ム ン ! 」 と , ぴ ょ ん ぴ ょ ん と と び な が ら 答 え る 。
私 は う れしさに,子供らといっしょにぴょんぴょんとんで笑った。おかしかったのは,私が自分の五厘ぐらいしかない7,8本のあごひげをつまんで見せて ,「 ヘ マ タ ? 」と 尋 ね た と き で あ る 。声 に 応 じ て ,子 供 ら は「 ノ ホ キ リ ! 」「 ノ ホ キ リ ! 」と 答 え て く れ た の で ,「 あ ご ひ げ 」と 記 入 し た 。
な ん ぞ 知 ら ん ,そ れ は 下 あ ご だ っ た 。ひ げづらになれているアイヌの子供たちの目には, 私 の つ ま ん だ ひ げ な ど は ,ひ げ の 数 に は 入らないので,私の指はあごをつまんでいると思ったのである。
私はこうして,たちまちのうちに74個の単語を採集して,元気づいた。おりから,河原に集まって鱒を捕えている大勢の大人たちの所へお り て 行 っ て ,覚 え た ばかりのほやほや の 単 語 を 使 っ て み せ た 。
河 原 の 石 を 指 さ し て は ,「 ス マ 」と 叫 び ,青 草 を 指 さ し て は ,「 ムン 」, 鱒 を 見 て は ,「 ヘ モ イ 」, 鱒 の 頭 を 指 さ し て は ,「 ヘ モ イ ー サ パ 」, 鱒 の 目 を 指 さ し ては ,「 ヘ モ イ ー シ シ 」, 鱒 の 口 を 指 さ し て は ,「 ヘ モ イ ー チ ャ ラ ! 」
これまで,むずかしい顔ばかりしていたひげづらが,もじゃもじゃのひげの間から白い歯を現した。これまで,そむけそむけしていた婦女子の顔にも,まっさおな入れ墨の中から白い歯が見えた。明らかにみな笑ったのである。
中には,むこうから,網を持っている手 を 振 っ て 見 せ て「 ヤ ー( 網 )」と 言 っ た り ,砂 地 を 指 さ し て「 オ タ( 砂 )」と 言 っ た り した者もある。急いで手帳に書きつけながら,その発音をまねすると,不思議そうに手帳を見に寄ってくる者もあった。
婦女子 の 群 れ で は ,「 い つ 覚 え た ろ う 。」 と か ,「 よ く 覚 え たも の だ 。」 と か 言 う ら し い 感 嘆 の 声 を あ げ た 者 も あ っ た 。
金田一京助さんは「なに?」から始めてアイヌ語の辞書まで作成。今でも「生きていく知恵」を教わったような感動があります。
what?(英語) 什么?シェンマ(中国語)応用がどんどん利きます。
また、一歩進めて、分からないことや困ったことなど有ったら、このことから、「5W1H」も分かっている人に積極的に聞くことの大切さも学びました。
※5W1Hとは、「When:いつ」「Where:どこで」「Who:だれが」「What:何を」「Why:なぜ」「How:どのように」からなる情報伝達のために必要な要素を示した言葉です。
「135,これは何?」への2件の返信
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