中学校で教師をしている友達が、今から数十年前の新聞の切り抜きを見せてくれた。
人影が消えた放課後の教室で、少し興奮した三年生の男子生徒たちに囲まれていた。
暴力やたばこなどで指導したことのある顔ぶれがそろっていた。
「これは、やられるかもしれない」。とっさに思った身構えた。
中堅の先生たちは、首都圏の中学校で率先して「つっぱり組」の指導にあたっている。グループにとっては疎ましい存在だった。
グループの使い走り役の生徒に「先生、ちょっと来いよ」と呼ばれて、この教室に入った。
人数を目で追った。八人いた。彼らは机の上に、無造作に座っていた。自分も机に座った。椅子に腰かければ彼らから見下ろされる形になる。
体力には自信があった。二,三人が相手なら勝負にもなるが、これでは無理だ。いままで、荒れる生徒に面と向かって指導をしてきたが、切実に身の危険を感じたことは初めてだった。
「しまった。他の先生に声をかけて一緒に来ればよかった」。そう思ったが、もう遅い。
興奮すると手のつけられなくなる生徒が三人いた。
リーダー格の一人には以前、廊下で、後ろから蹴られて、倒れそうになったことがある。さらに追いかけられ胸ぐらをつかまれた。
「てめえ、何考えてんだ。あいつはオレたちと一緒がいいんだよ」そのとき太い学生ズボンをはいたその生徒が、少し声を荒げた。
よく聞くと、ある生徒にグループから抜けるように諭したことを問題にしていた。
「そうかなあ。先生はあいつの気持ちをよく聞いたつもりだ」。なるべく穏やかにしゃべった。
リーダー格の生徒の後方を見ると、廊下で蹴られたとき、「やめとけ」と仲裁に入った生徒が目にとまった。
「もし、やられても、あいつなら止めに入ってくれるかもしれない」。
淡い期待が頭の中をよぎった。
「日直の先生が、校内の見回りに来たら、助けを求めよう」とも思った。
約一時間、数人が乱暴な言葉でしゃべり、自分がそれに答えるという状態が続いた。
一部の生徒がくたびれたような様子を見せた。「大丈夫だ」。
私の緊張はゆるんだ。
ほどなく一人の生徒が
「腹へったな」と言い出した。一対八の「対決」はこれで終わった。
八人は一年生のときから、学年の担当として面倒を見てきた。担任した生徒もいる。
問題を起こしたとき、自宅まで訪ねて行って、長時間親と話し込んだこともある。
「信頼」という言葉を改めて思い浮かべる。「あの子たちとは、どこかでつながっていると信じていたじゃないか」。
それなのに「やられる」「助けは来ないか」と思った。あの場面、状況では仕方がないかもしれない。だが、自己嫌悪を感じた。
二学期が始まった。彼らはあと半年で卒業する。敢えてかかわりを持とうとしない同僚も少なくない。
最近、教師でいることが少ししんどい。
ちょうど校内暴力が社会問題になっていた頃の内容だった。
友達に「今の学校は、どうなの?」と聞いたら
「今の子供たちはあまりつるまないよ。ボンタンにリーゼントやパンチパーマなんて、もういないよ。
髪型もそれぞれだし、敢えて言えば、子どもより、親の対応の方が大変なこともあるよ。…
毎日、朝早くから夜まで仕事はきついけど、人間相手だから楽しいことも多いよ。この記事ほどじゃないよ。」
「でも良く頑張るよなあ。」
友達は一言
「子ども達が好きだからね。」
その友達ももうすぐ定年を迎えるという。
だが、この記事をなぜ友達は私にくれたのだろうか?
腹減っていたのかなあ。
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