小学校時代の国語の教科書に、こんな物語が載っていました。

《雨に濡れた本》
リンカーンは、アメリカの16番目の大統領です。
リンカーンが大統領になるまで、アメリカでは人間を売ったり、買ったりしていました。
それは黒人と言われる人達で、自分達と、肌の色が違うというだけで、まるで動物のように働かせていました。
リンカーンは、この悪い習慣をやめさせた人です。
リンカーンの父親は、貧しいお百姓さんでした。
森の木を切り、そこに畑を作って暮らしていました。家と言っても丸い木を積み上げただけの、まるで物置小屋のようなものです。
家族は、父親と母親の他に、姉とリンカーンの4人。たった4人でも一生懸命働かなくては、ご飯を食べることもできません。
父親も母親も、朝早くから夜遅くまで真っ黒になり働きました。
リンカーンも7歳になると、父親や母親と一緒に畑へ行き、仕事の手伝いをしました。
それでも食べるものといったら、自分の家の畑で取れるジャガイモとトウモロコシぐらいで、パンを買うお金もありません。
夜になってもローソクがなく、いろりに薪をくべ、その明かりで本を読みました。
学校へ履いていく靴も、父親の作ってくれるシカの皮の靴です。
雨が降ると、すぐに壊れてしまい、まるで裸足で歩くようなものでした。
リンカーンはその学校も、一年ほど通っただけでやめてしまいました。
お金がないので、父親や母親と一緒に働かなくてはならないからです。
でもリンカーンは、少しも悲しいとは思いませんでした。森の中には、シカやウサギがいます。畑仕事が終わると、このシカやウサギを追いかけて遊びました。
リンカーンの一番楽しいことは、夕方、家の前にある切り株に座って、母親からお話や歌を聞いたりすることでした。
(早く大きくなって、お母さんをうんと楽にしてあげなくちゃ)
母親にお話をしてもらう度に、リンカーンはそう思うのでした。
でも、その母親も、まもなく栄養が足りなくて病気になり、亡くなってしまいました。
リンカーンが10歳になった時、新しい母親がきました。
この母親も働き者で、優しい人でした。
学校に行けないリンカーンのために、自分の持ってきた本を読ませてくれました。
リンカーンは、夢中になって本を読みました。
沢山本がないので、同じ本を何度も何度も読みました。
(もっと他に、新しい本が読みたいなあ)と思っても、本を買うお金なんてありません。
するとある日のこと、近くに住んでいるお百姓さんが『ワシントン伝』という本を貸してくれました。

ワシントンは、アメリカで初めて大統領になった人です。
この本には、ワシントンの一生が詳しく書いてあったのです。
こんな本は、今まで読んだことがありませんでした。
ワシントンが子供の時、どんな暮らしをしていたか、どうやって大統領になったのか、まるで目に見えるように書いてあります。
もうおもしろくておもしろくて、このままずっと終わりまで読んでいたいほどです。
でもリンカーンは、仕事をしなくてはなりません。
本を読む時間は夜だけです。毎晩、ベッドの上で夜遅くまで読んだ後、本をベッドのそばの丸太の間にはさんでおき、仕事が終わってから読みました。
ところがある晩のことです。
仕事で疲れていたリンカーンは、雨が降っているのも気づかずに、本を丸太の間に挟んだまま眠り込んでしまいました。
リンカーンのベッドは、屋根のすぐ下にあり、丸太の間から雨が漏ります。
次の朝、起きてみるとどうでしょう。大切な本が雨に濡れて、ぶくぶくに膨らんでいました。

「しまった」…リンカーンは、慌てて本を取り出しましたが、もうどうすることも出来ません。これは人から借りた本です。
しかたなく、乾かした後、その本を持ってお百姓さんのところへ行きました。
「うっかりして、大切な本を雨に濡らしてしまいました。それなのに弁償するお金もありません。
そのかわり三日間、ただで働かせてください」リンカーンが一生懸命頼むので、お百姓さんは三日間働いてもらうことにしました。
薪を割ったり、牛の世話をしたり、リンカーンは、夢中になって働きました。
三日目の夕方、お百姓さんがいいました。
「君は、本当に働き者だ。お礼にその「ワシントン伝」をあげよう。
それからこれもあげよう」と言って、アメリカの国がどうやって発展してきたのかという歴史の本までくれました。
「ありがとう、おじさん」リンカーンは飛び上がって喜ぶと、二冊の本をかかえたまま、飛ぶようにかけていきました。
西本鶏介さん著 「光をかかげた人たち」 より抜粋

本当に人を試したかったら
権力を与えてみることだ。
●木を切り倒すのに6時間ほしい。
そのうち4時間は斧を研ぐことに費やそう。
●全ては本から学んだ。
「リンカーン」とか「濡れた本」と聞くと小学校時代を思い出します。
当時、国語の授業中に先生に指名された友達が。大きな声で読みました。
「ねれた本」
「えっ?」クラスのみんなも先生も変だと思いました。
「もう一回読んでみて!」先生が言うと、
その友達は、自信をもって、再度「ねれた本」と…
みんな一斉に笑いました。
「君、『ぬ』と『ね』を間違って覚えていない?だいいち、ねれた本ってどんな本なんだ?」
「はい、誰も読まないから、ずっと寝ていた本だと思います。」「ああ、それで本がゆっくり寝れたんだ。」
みんなお腹を抱えて笑いました。
このことがあって、強烈にこのリンカーンの話は覚えています。
『過ちは誰にでもある。逃げたりごまかしたりせず、誠意をもって対処しなさい』この教訓とともに…。
ところで、今、私たちが習ってきた「リンカーン大統領」は「リンカン大統領」っていうのが、当時の彼の呼び方に近いとされてきていますね。
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