二人の若者が田舎道を歩いている。
「蕗の薹(ふきのとう)がもう出てきたのか?」
「どれ?どれ?それがそうなのか?」
「えっ?蕗の薹も知らないの?」
「知らないなあ。」
「風は冷たいけど、春も近いなあ。」
「お前、植物に詳しそうだな?」
「そんなこと無いけど、中学校時、理科の先生に無理矢理覚えさせられたんだよ。」
「じゃあ、春の七草なんて言えるの?」
「ああ、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロだろ?」
「凄いね。」
「5757で覚えさせられたよ。何回も言わされて…」
「自慢じゃないけど、俺なんか何にも知らないよ。」
「その先生も言ってたよ。
『私は草花など好きではないし、何の興味も無かった。誰も教えてくれないし、聞く気もなかった。
父親に『山に行って榊(サカキ)を取ってこい!』と言われても、どれが榊か分からず、似たような葉を取ってきて『違う!』と叱られたこともあった。
だから、君たちには、自然を知る一つの入り口として簡単な身近な草花を覚えて欲しい』と。」
「へえ。」
「授業中に野外にみんなで行って、指定された草花を採集し、スケッチを強要されてさ、しかも、それぞれの草花に俳句というか川柳というか575でまとめの宿題、最後には先生自作のビデオで名前を答えるテストがあって、合格しないと何度も残されて覚えさせられたよ。」
「そこまでやれば覚えるよね。」
「オオイヌノフグリとか、ブタクサ、ヘクソカズラなんて変な名前だろう?名前を付けた学者は、覚えて欲しいから記憶に残るように、敢えて変な名前を付けたんだって。」
「そうなんだ。」
「オオイヌノフグリなんて、小さな綺麗な花なのに、犬のタマタマなんて付けられちゃって可哀想だけどな。」
「えっ?そういう意味なの?」
「もう忘れないだろう?」
「確かに…」
「草花の名前なんか知ら無くても、生きていけるけど、知っていると季節を感じたり、日々の生活が少し豊かになるんじゃないのかなあ。」
「そうなんだ。」
「今はスマフォで名前もすぐ調べられるから便利だけど、逆に苦労してないから覚えないんだよな。」
「それは言えるよな。」
「あの先生には感謝しているよ。
『教科書読んでおけ。黒板写して覚えろ!』だけの先生もいるのに…。
教材の見える化、立体化、体験、応用…そこまでやらなくても良いのに…。
生徒たちが本当の知識が身に付くように、色々工夫して教えてくれていたから、授業も楽しかったよ。」
「そうなんだ。」
「俺も会社のプレゼンなどにも生かそうと思っているんだけど、まだまだだなあ。」
「なるほどなあ。お前と話してたら、何となく草花に興味が出てきたよ。」
「そうか?」
「あちゃーっ、滑ると思ったら、犬のうんこ踏んじゃったよ。」
「ぶーっ、ふふふ。それで俺の車に乗らないでくれよな。」
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「225,セリ、ナズナ」への3件の返信
とても興味深く、状況が目に浮かぶお話でした。「教材の見える化、立体化、体験、応用」家庭教育においても然りで、伝える本質ですね。
実りある質疑応答は体験と、人との繋がりの中で生まれるものだとあらためて実感。有意義なお話、ありがとうございます。
ポポンさんへ
コメントありがとうございます。とても励みになりました。人に伝えたり、教えたりすることの難しさを常々感じています。また、逆に自分が人からの説明を受けたり、教えを受けたりした時どう嚙み砕けばいいのか、受け取る側の自身の問題もありそうなので、これからの課題としています。201巣立つ人たちへで書いた森本哲郎さんのいう「られ方」ですね。感謝!パナシ
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