
ある日、仕事場の女性同僚と休憩時にゆったり世間話やら雑談をしていたら、こんな話が出てきました。その女性同僚の息子の翔真君が保育園に通っていた時のことです。
スーパーに買い物に行ったとき、突然見知らぬ女性から
「大庭翔真君のお母さんですか?」と声をかけられました。
「はい、そうですけど、翔真が何か…?」
「私は、同じ保育園に行っている木村大樹の母ですが、このような場所ですみません。」
「あっ、はい。」
「うちの大樹は、少し障害を持ってましてね、友達がなかなかできないんですが、先日、こんなことがあったんです。
子供たちが、保育園の庭で遊んでいたとき、翔真君と大樹がお互いよそ見をして歩いていたので肩と肩が軽くぶつかったんです。倒れるようなことはありませんでした。

その後、翔真君は、地面に積み木のブロックを重ねて、何かを作って遊んでいました。
すると、うちの大樹が翔真君の所にさっと歩いて行き、積み上げたブロックを手でバーンと、はたいて壊してしまったのです。ぶつかったことを思い出したんでしょうね。
アッ、ケンカになるなあと思いました。翔真君が大樹の手をつかみました。
私は、止めなくちゃ!そう思い、急いでその場に近づいていくと、翔真君は大樹の手を上下に振り、こう言いました。
『なかなおり、なかなおり』と。

私は、驚きました。
『えっ?えっ?こんなことあるの?』大樹の顔も穏やかになり、一緒に『なかなおり、なかなおり』と。
私は、思わず涙が出てきました。
大樹はあまり友達から受け入れてもらえないことが多いのに、ましてや、翔真君が『なにすんだよ!』と怒っても当然なのに…。
私は、翔真君から教わりましたよ。
『なかなおり、なかなおり』いい言葉ですね。
大樹のことが心配で、時々保育園に行って遠くから様子を見ているんですが、すごく安心しました。
大樹もうれしかったんだと思います。
お母さんに、今日は、このことが伝えたくて…。」

「そうなんですか。そんなことがあったんですか。
翔真がねえ。…教えていただいてありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。」
「大庭さん、翔真君は、とってもいい子ですよ。」
買い物を終えて、家路に向かうお母さんの足取りも軽かったです。「なかなおり、なかなおり…か、翔真がねえ…」。
女性同僚のその話を聞き、
「いい話ですね。聞いた私もうれしくなりなしたよ。」
「なかなおり、なかなおり」私もつい口ずさんでいました。
ちなみに翔真君は、今はもう大学生だそうです。

