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パナシ

222,棒人間

うまいね。この絵は。誰が描いたのかなあ。

「おお、ヒデちゃん、絵がうまくなったね。」

「そーお?何回か書き直したんだけど、まだまだ、思った通りに描けないんだよ。先生は、『最初の線は消さない』と教えてくれたけど、うまく行かないんだよ。」

「お父さんも絵は、苦手だなあ。子どもの頃の苦い経験があるんだよ。」

「えっ、そうなの。」

「3歳くらいの話だけどね。初めてクレヨン買ってもらったんだ。」

「いい匂いしたでしょ?」

「うん、それで紙にお父さんとお母さんの絵を描いたんだよ。」

「うまく描けたの?」

「棒人間みたいだったかなあ。」

「3歳だものね。」

「それを見たおばあさんが、すごく誉めてくれて、嬉しかったなあ。」

「よく覚えているね。」

「うん、その後があるからだよ。」

「その後?それでどうなったの?」

「家で一人になった時、もっと誉めてもらおうと、大きな絵を描いたんだよ。」

「どこに?」

「それがね、襖なんだよ。」

「お父さん、それってまずいんじゃないの?」

「そう思うか?」

「だって、襖でしょう?」

「うん、家の人が帰って来たら、たくさん誉められるだろうと思って4枚くらいに大きく描いたかなあ。…

ところが、帰ってきたお母さんに
『見て!すごいでしょ?』と意気揚々と言ったんだ。そしたら…

天国から地獄とはこのことだね。
お母さんに叱られ、お父さんにも、おばあちゃんにも叱られたんだよ。」

「そりゃ、そうでしょう。」

「でもその時は、なぜ、いけないのか良く分からなかったよ。」

「ああ、3歳だものね。」

「それからは、絵が描けなくなったんだよ。」

「それでよく覚えているんだね。お父さん。」

「ヒデちゃんはそんなことしないでね。」

「アハ、しないよ、でもお父さんに誉められたから、自動車にこの絵を描いちゃうかもよ。」

「じゃあ、さっき誉めたのは、取り消すよ。」

「嘘だよ、お父さん。でも、その襖の絵も誉められていたら、どうなっていたんだろうね?」

「世界でも有名な画家に…ということはないか?」

「アハハハ。」

「ま、もう少し頑張れば?」

「うん。」