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「おお、ヒデちゃん、絵がうまくなったね。」
「そーお?何回か書き直したんだけど、まだまだ、思った通りに描けないんだよ。先生は、『最初の線は消さない』と教えてくれたけど、うまく行かないんだよ。」
「お父さんも絵は、苦手だなあ。子どもの頃の苦い経験があるんだよ。」
「えっ、そうなの。」
「3歳くらいの話だけどね。初めてクレヨン買ってもらったんだ。」
「いい匂いしたでしょ?」
「うん、それで紙にお父さんとお母さんの絵を描いたんだよ。」
「うまく描けたの?」
「棒人間みたいだったかなあ。」
「3歳だものね。」
「それを見たおばあさんが、すごく誉めてくれて、嬉しかったなあ。」
「よく覚えているね。」
「うん、その後があるからだよ。」
「その後?それでどうなったの?」
「家で一人になった時、もっと誉めてもらおうと、大きな絵を描いたんだよ。」
「どこに?」
「それがね、襖なんだよ。」
「お父さん、それってまずいんじゃないの?」
「そう思うか?」
「だって、襖でしょう?」
「うん、家の人が帰って来たら、たくさん誉められるだろうと思って4枚くらいに大きく描いたかなあ。…
ところが、帰ってきたお母さんに
『見て!すごいでしょ?』と意気揚々と言ったんだ。そしたら…
天国から地獄とはこのことだね。
お母さんに叱られ、お父さんにも、おばあちゃんにも叱られたんだよ。」
「そりゃ、そうでしょう。」
「でもその時は、なぜ、いけないのか良く分からなかったよ。」
「ああ、3歳だものね。」
「それからは、絵が描けなくなったんだよ。」
「それでよく覚えているんだね。お父さん。」
「ヒデちゃんはそんなことしないでね。」
「アハ、しないよ、でもお父さんに誉められたから、自動車にこの絵を描いちゃうかもよ。」
「じゃあ、さっき誉めたのは、取り消すよ。」
「嘘だよ、お父さん。でも、その襖の絵も誉められていたら、どうなっていたんだろうね?」
「世界でも有名な画家に…ということはないか?」
「アハハハ。」
「ま、もう少し頑張れば?」
「うん。」