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パナシ

337,働き者


近所に住む、ちょっと年上の先輩が語ってくれた。

「自分の身近にこんなすごい人がいたんだよ。」

「どんな方なんですか?」

「うん、私より2~3歳年上の女性なんだけどね。直接聞いたわけじゃないけど…。彼女は、農家の生まれで、周りの勧めもあって、農家の長男の家に嫁いだんだ。

彼女のすごいのは、そこからなんだよ。『どうしても、勤めの仕事がしたい』からと、町に新しく進出してきた大型のお店で働くことにしたんだ。
亭主、舅、姑も反対してきた。『うちの農業だけだって大変なのに、外で働くなんて、両方ダメにするから無理だ。止めておけ!』
 だが、彼女は、意志が硬く、曲げなかった。
とは言っても、気持ちだけでは、やっていけない。

現実は厳しいものがあった。

毎朝4時には起きて、田んぼ仕事、畑の仕事、それを終えて、家族の朝の食事作り、後片付け、そして急いで自分の身支度を整えて、駅まで歩いて行き、会社勤務。

帰ってくれば、残っている田んぼや畑仕事がある。それに、風呂の準備、夕飯の支度、洗濯…。

大事な子供が生まれれば、育児が加わる…。

正月、お盆は、帰省してくる義理の弟や妹たち家族の接待、まさに、働き詰めの毎日。

『私にも意地があったからね。出来ないとは言えなかった。やるしかなかったのよ。風邪をひいても具合が悪いなんて言えなかったし…。
長男の嫁は、まるで奴隷のよう…。

自分一人で泣く夜もあった。とか…。

『お店で働いている時が息抜きの時だった。』という。『今の時代に生まれていたら、私もそんなには出来なかったでしょうけど、あの当時は、それくらいじゃないと外に出て働くなんて出来なかったからね。』

「その人、よく身体を壊さなかったですね。」
「うん、彼女、本当に自分の両親に感謝していたなあ。健康で生活できる体に産んでくれたことに…。」

彼女の努力もあって、人当たりも良く、個客も多く、会社でも信頼される優秀な社員と認められ、姑も『あなたは、すごい仕事をしていたんだねと。』

「俺は、改めて、彼女の笑顔のすごさに驚いているよ。癒されている自分に気が付いたよ。口じゃうまく言えないけど、すごい人だよ。そばにいるだけで、周りに好い雰囲気を与えるんだよな。

彼女も、いろいろと辛いこともあっただろうけど、みんな自分の中で解消してきたんだろうな。…
だから、他人の心の嬉しさや悲しさ、辛さ、痛みなど自分のことのようにわかるんだろうな。

『年を取ったら自分の顔は、自分で作れ!』ってよく言われるけど、彼女の顔は、人生、喜怒哀楽の味が詰まっている最高の顔だと思うよ。

「そうなんですか?益々、会ってみたくなりましたよ。」

「本人に、面と向かっては、言えないけど。こういう人を『働き者』と言うんだろうなあ。
本当に、彼女の爪の垢でも煎じて飲ましてもらいたいよ。」

「働き者ですか。良い響きですね。」

「だが、彼女は、言うんだよ、『当時は、みんながよく働いていたのよ。…

今になって考えると、私は、働き続けてきて、良かったわ。お店で知り合った多くのお客の方たちが、ずっと好くしてくれるの。』

そして、こんなことも
『私は、今になって自由の身になったけど、自分の自由がうまく使えないのよ。』と、

さらに、『今の若い人たちが羨ましい時もある。』という。」

「本当にすごい人ですね。今度、紹介してくださいよ。」

「彼女を見ていると、自分のおふくろを思い出しちゃうんだよな。毎日、よく働いていたからなあ。」

「その方、ずっと幸せでいて欲しいですね。」

「ああ、そうだね。君も良い所があるね。」

「そうですか?その女性のすごさを見つけられた先輩もすごいと思いますよ。」

「君、今日一緒に飲まないかい?」

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