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パナシ

202,左手

《左手を出しなさい!》

  左手をひざに置いたり、ま、とにかく、机から手を下ろして書いている方がありますね。
どうして?それが楽なのでしょうか?
書くのは右手ですので左手はどこにあってもどうということはない、そういう気がするのかもしれませんね。

 ところがですよ、その左手は、そんなふうに、右手が書いているときに暇な手ではないようです。

 ある書家の方に伺ったお話です。
その書家の方が交通事故であったのか、何であったのか、左手に大けがをされて、右手だけしか当分使えない、そういうことになった時に、
その書家の先生は「ああ 良かった。これが右手だったら、本当に大変だった。左手でよかった。」と言ってよろこばれたそうです。

 ところが間もなく、その先生は、ひとつの発見をなさいました。

右手は、なるほど何のけがもしていない、全く無事のようです。

けれども、その右手に筆を持って書かれた時、どうしても前のように力が入らなかったそうです。
体を倒すようにして左のひじを机に着け、そうして書いてみるといくらか書きよかったそうです。

 その時、その書家の先生は、「書くのは右手だけれど、左手が一体どんな役割をしていたものなのか、
いま、左手を失ってみて、いろいろに体の工夫をしながら、左手のしていた仕事をからだ全体で補うようにして字を書いている間に、左手のはたらきをしみじみ考えた。」そういうお話なんです。

 みなさん!左手を出しなさい!。
左手は何にもしないようだけれども、本当は右手を生かしている左手だったんです。

(大村はまさん「おりおりの話」より)

左手を出しなさい!
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