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「あなた、止めて!」
「えっ?何?」
「そうやって、無意識でやっているから、嫌なのよ。」
「えっ?何のこと?」
「新聞をめくる時に、指を舐めているでしょ?」
「そうそう、お父さんは、よくやっているよね、お母さん。」
「ああ、そのことか、そうか、そうか。」
「ヒデちゃんのクラスの先生は、指を舐めていないわよね?」
「プリントを配る時、時々やっているなあ。」
「ヒデちゃんは、どう思う?」
「僕も嫌だけど、みんなも嫌だと思っているよ。」
「じゃあ、先生に言えばいいじゃないの?」
「なかなか言えないよ。」
「新聞めくりやプリント配り、お札数え、スーパーでビニール袋を開いて広げるなど、よく見かける光景だけど、本人以外は、みんな嫌がっているのよね。」
「だからね、教室でも前の方の席は、嫌なんだって、みんな言っているよ。
先生の唾は、飛ぶし…」
「歳を取ると、指先に水分がなくなるから、紙など薄いものが掴みづらくなるのよ。だから、指を舐めるのは、歳寄りの証拠ってことね。」
「と、言うことだって、お父さん。」
「はい、はい、以後は、気を付けますよ。」
数日過ぎたころ、
シャツのボタンが取れたので、ヒデちゃんは母親に
「お母さん、ボタンが取れちゃったから、付けてくれない?」
「はい、ちょっと貸してみて…。」
母親は、裁縫道具箱から、針と糸を取り出した。
糸の先端を口に入れてから、指で丸めて針に通した。
それを見ていたヒデちゃんは
「お母さん、糸は、舐めてもいいの?」
「あらあら、見てたのね。それくらいは、いいんじゃないの?特にお母さんのは、綺麗なのよ。」
「ふーん、そうなんだ。
…『人のふり見て我が振り直せ!』って、先生が言ってたなあ。…」