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パナシ

373,指舐め

「あなた、止めて!」

「えっ?何?」

「そうやって、無意識でやっているから、嫌なのよ。」

「えっ?何のこと?」

「新聞をめくる時に、指を舐めているでしょ?」

「そうそう、お父さんは、よくやっているよね、お母さん。」

「ああ、そのことか、そうか、そうか。」

「ヒデちゃんのクラスの先生は、指を舐めていないわよね?」

「プリントを配る時、時々やっているなあ。」

「ヒデちゃんは、どう思う?」

「僕も嫌だけど、みんなも嫌だと思っているよ。」

「じゃあ、先生に言えばいいじゃないの?」

「なかなか言えないよ。」

「新聞めくりやプリント配り、お札数え、スーパーでビニール袋を開いて広げるなど、よく見かける光景だけど、本人以外は、みんな嫌がっているのよね。」

「だからね、教室でも前の方の席は、嫌なんだって、みんな言っているよ。
先生の唾は、飛ぶし…」

「歳を取ると、指先に水分がなくなるから、紙など薄いものが掴みづらくなるのよ。だから、指を舐めるのは、歳寄りの証拠ってことね。」

「と、言うことだって、お父さん。」

「はい、はい、以後は、気を付けますよ。」


数日過ぎたころ、

シャツのボタンが取れたので、ヒデちゃんは母親に

「お母さん、ボタンが取れちゃったから、付けてくれない?」

「はい、ちょっと貸してみて…。」

母親は、裁縫道具箱から、針と糸を取り出した。
糸の先端を口に入れてから、指で丸めて針に通した。

それを見ていたヒデちゃんは

「お母さん、糸は、舐めてもいいの?」

「あらあら、見てたのね。それくらいは、いいんじゃないの?特にお母さんのは、綺麗なのよ。」

「ふーん、そうなんだ。

…『人のふり見て我が振り直せ!』って、先生が言ってたなあ。…」