
「おい、田中君、ちょっと来て!」
部長から声がかかり、部長室に行くと
「今度、君を係長に推薦しようと思うんだが、どうかな?」
「えっ?…でも…僕にはそんな力はないです。周りは年上の方が多いですし…お気持ちは嬉しいんですが…」
「最初から自信のある人はいないよ。そんな人は、信用出来ないよ…。
私も柔道やっていて、師匠から二段を受けないかと言われたとき、今の君と同じように答えたんだ。
すると師匠が
『誰だって自信のあるやつはいないよ。自信が付くまでといったら一生お前は初段で終わるぞ。
二段にならなければ二段の世界は見えてこない。
立場は人を変えるんだよ。
新しい帯を締めたら二段の風格がだんだんと出てくるから大丈夫…。
いいか、人の好意とお薦め事は、素直に受けることだ。
断ったら二度とその話はないと思え!…。
…これ昇段申請書だ。次の練習日までに仕上げてこい!』
強引さの中にやさしさがあったなあ。あの師匠…」。
「部長、分かりました。力不足ですがやらせていただきます。」
「そうか。良かった。係長という立場で君の手腕を存分に発揮してもらいたい。応援しているから頑張って!
あっ、この話、まだ二人だけのことだからな。」
「はい、ありがとうございます。」

部屋を出る田中さんの姿には、やる気が益々出てきていました。
