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教員をしている友達と飲んでいるとき、何かぶつぶつ言っているので
「何ぶつぶつ言ってんだよ?」
「いやあ、この時期になると思い出すんだよな、痴漢を捕まえた時のことをね。」
「えっ?お前痴漢を捕まえたことあるの?」
「ううん、捕まえたというより友達になったというのが正しいかな?」
「ちょっと詳しく聞かせてくれよ。」
「実は…。」
異動で○〇中学校に教頭として着任して数日経った時の話だという。
夕方、俺の歓迎会を開いてくれるというので、会場の店に向かって歩いていた時
「先生!助けてください!…あの人痴漢です。」
二人の女子中学生が突然、俺にすがりついてきたんだよ。
「どうした?落ち着け!」…「何かされたのかい?」
「ずっと私たちの後を付けているんです。怖くて怖くて。」
「痴漢?そうとは言い切れないだろう?」
「私たちもう警察に連絡しました。」
「そうか、あの人だな?ここで待っていなさい。」… 男は、50歳前後に見えた。
俺は、その男の後を追いかけていったんだよ。
「あなた痴漢でしょう?うちの生徒に何をするつもりだったんですか?」
と決めつけて、そんな言い方したら逆上されること間違いなしだろう。
こりゃ文句を言われるか、最悪ケンカになるかな?と内心思っていたよ。
すると男は、急にこちらに振り返り、こちらに向かって歩いてきたんだ。「よし、先手必勝だな。丁寧に攻めよう。」…
俺は、彼に声を掛けたんだよ。
丁寧に「こんにちは!突然すみません、私はそこの中学校の教頭の藤岡と申します。」
「それで?」
「実は、うちの生徒があなたのことを痴漢だと勘違いして、警察に連絡してしまいました。」
「はあ?なに?なんでそんなことになったんだよ?」
「申し訳ありません。警察からあなたの連絡が来たら、すべて私に回してください。あなたが痴漢ではないことを私が証言しますから。」
「当たり前だろ。」という彼に、作ったばかりの自分の名刺を差し出し
「よろしかったら、お名前と電話番号を教えてくれますか?」
こちらの勢いに、彼は、しぶしぶ「あかぎあきら」と答えた。
俺は一瞬耳を疑ったよ。赤木章ってうちの校長の名前じゃないか。俺は、おちょくられたかな?と思いつつ
「漢字ではどう書きますか?」
「赤い木に昭和の昭」
「いやあ、びっくりしましたよ。うちの校長もあかぎあきらなんですよ。あきらは文章の章ですけれどね。すみません、電話番号は?」
「〇〇‐○〇〇〇」素早く番号をメモし、「この近くにお住まいですか?」
「うん、すぐそこ。」
「最近、痴漢とか、皆さん妙に敏感になっていますからね。」
「そうだね。」
「もしそういう手合いを見つけたらすぐ警察に連絡してください。お願いします。子供を守るのは大人たちの役目ですからね。」
「そうだね。」
しばらく二人で話ながら歩いているとパトカーが来ました。
急いで警察官に事情を説明し、
「この赤木さんは痴漢じゃありませんから。子供たちを守ってくれる学区内の大切な住人ですから。」と敢えて大きな声で言い切ったよ。…
「今後何かありましたら連絡しますから…」「本当にお手数をおかけしました。」
パトカーが去った後「赤木さん、今日は、本当に申し訳ありませんでした。今後ともよろしくお願いします。」
そして、二人の中学生にも「大丈夫、あの人は痴漢じゃなかったよ。夕方の散歩をしていたらしいよ。変な人がいたら今度はあの人が助けてくれるそうだから安心していいよ。今度会ったら挨拶するといいよ。今回は怖い体験したけど、もう大丈夫。車に気をつけて帰りなさいよ。さようなら」
「先生ありがとう。さようなら。」
歓迎会には少し遅れたけど、今あった事のいきさつを伝え、校長とその人が同じ名前だったことに皆が大爆笑。
あとでつくづく揉め事にならずに済んでよかったことと、もう一つ、筆記用具を持っていて良かったことを思い出すよ。
そのあとは、翌日、赤木さんに、警察からその後連絡があったかどうかを電話で聞き、何もなかったことを確認したよ。
時々、彼に道で会うと必ず声をかけたよ。
「赤木さん、最近どう?変な人いない?」
「おう、大丈夫だよ。」
「もうすぐ運動会だから、見に来てくださいね。」
友人がまた一人増えたって感じだったなあ。
私は、友人のこの体験から、決めつけず丁寧に対応することと筆記用具は、常に所持を教訓として学びました。
あなたは蝶ですか?蛾ですか? 知りませんよ。あなたが決めてくださいな。