「お父さん、今日、学校で校長先生が校庭の隅の草刈りやっていたので、ちょっと友達と行って見ていたんだ。」
「そうか。やりたくなっただろう?」
「うん、最初、僕は丸いノコギリみたいな刃でやっているのかなあと思っていたけど、僕たちが近づいたら、エンジンを止めてくれて、機械の先を見せてくれたんだ。丸い刃じゃなかったんだよ。なんだと思う?お父さん?」
「ナイロンみたいな細い紐だろう?」
「えっ?何で知っているの?」
「お父さんも草刈りで何回か使ったことあるんだよ。」「そうなんだ。
校長先生に『それで切れるんですか?』と聞いたら
『勢い良く回すとこんな紐でも草は切れるんだよ。』と教えてくれたんだ。チャイムが鳴ったので、それ以上聞くことができなかったけど、すごいなあ、と思ったんだ。」
「で、お父さん、なんで紐みたいな軽いものが勢いよく回ると刃物みたいになるの?」
「ヒデちゃん、エネルギーとかパワーとか聞いたことあるかい?」
「うん、勢いみたいな感じ?」
「うん、それで良いよ。ヒデちゃん、ちょっと考えてみて。」
「うん」
「いいかい、今これノック式のボールペンだけど、机から1cmの高さからノックの方を下にして落としたらどうなる?」
「何にもならないんじゃないの?」
「じゃあ、これを1mくらいの高さから落としたら?」
「なんとなくロックがかかりそうな気がする。」
「じゃあ、やってみようか?」
「僕にやらせて。」…
…「本当だ。高さが高いと勢いがつくんだね。分かった。」
「では、このボールペンをビルの三階から落としたら?」
「うーん、勢い良すぎて壊れちゃうんじゃないの?」
「その通りだ。ちなみに東京タワーや東京スカイツリーから小石を落としたら、ピストルの弾より速いらしいよ。」
「へーっ、危ないね。」
「位置が高いものほどエネルギーが大きいことは、なんとなく分かったかい?」
「うん。」
「高さだけじゃなくて、実は運動しているものも、速度つまりスピードが大きいほど、エネルギーが大きいんだよ。」
「そうなんだ?」
「だから、あんな軽いナイロンの紐でも高速で回転すると草を刈れるくらいのパワーは出てくるんだよ。しかも連続で草にあたるし…。
以前に、道路を走っている車のタイヤが外れて、それが対向車にぶつかるという事故があったけど、外れてもタイヤはすごいスピードで動いていたから想像以上の事故になったらしいよ。」
「それも怖いね。」…
「ついでだから、ヒデちゃん、この世の中で一番速いものはなに?」
「突然聞かれても分からないよ。」
「そうか。実は光なんだよ。秒速30万km。地球の周囲が4万kmだから、30÷4=7,5で、光は1秒間に地球を7周り半。」
「あっという間だね。」
「アインシュタインという人が考えた相対性理論によると、光の速さの宇宙船で地球を飛び出して行ってまた地球に戻ってくると、自分たちは年を取っていないのに、地球では100年以上も過ぎてるとか、浦島太郎の世界になるらしいよ。」
「へえっ?面白そう。」
「ちょっと難しいけど、今、身近にあるものが光の速さで動いていたら、そのエネルギーはすごいよね?」
「うん、なんとなく分かる気がする。だって、この世の中で最高の速度で動いているんでしょ?」
「うん、この考えが、原子力や原子爆弾の考えなんだよ。
アインシュタインは、これを簡単な数式で表したんだよ。
エネルギー(E)=物の質量(M)×光速(C)×光速(C)」
つまり
E=MC2(二乗)
アインシュタインは、日本が大好きだったけど、自分の考えが予想外に応用されて作られた原子爆弾が広島、長崎に落とされたことを知り嘆き悲しんだらしいよ。」
「僕、今度、図書室でアインシュタインの本を読んでみようかな?」
「今度、エネルギーのこと、校長先生にも聞いてみな。」
「うん。」