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「どうしたんだ?今日は、元気がないなあ。眠そうだな?」
「そうなんだよ。俺の所、マンションなんだけど、上の階の音がうるさくて。」
「ちゃんと言えば、いいじゃないか?」
「上が、どういう人だか、俺も良く知らないんだよ。
最近引っ越してきたらしいけど、ちゃんと挨拶もしてないし、顔も見てないんだ。
女房が言うには、障害を持った子供がいて、大変だとか言っていたけどな。」
「そうなんだ。だけど、言った方がお互いのためじゃないのか?
たまたま、ある音だったら許せるけど、眠れないほどだったら、大変なことだぞ。」
「棒かなあ?連続でドドドドドドとか、足をドンドンと踏み下ろしたり、そういうのが何回もあるんだよ。」
「自分で言いにくかったら、管理人とか自治会長さんとかに実情を話して、代わりに言ってもらったら?」
「うん、そうだね、そうしてみるよ。」
一週間後…
「上の階の音は、どうなった?」
「ああ、あれね、自治会長さんに話そうと思っていたら、例の棒の音が聞こえてきてね。」
「チャンスじゃないか。その音を直に聞いてもらえばよかったじゃないか。」
「うん、俺の方も笛の発表会が、近じか有るから、棒の音を紛らすために、練習も兼ねて、ちょっと大きな音で笛を吹いたんだよ。」
「そしたら止んだのか?」
「そうなんだよ。何曲か、吹いているうちにその子の好きな曲があったんだろうなあ。ぴたりと止ったんだよ。」
「嘘だろう。たまたまじゃないのか?」
「そう思ったから、その曲を何回か吹いたんだよ。
それが当たりだったね。
その日は、それ以上うるさい音はなかったけどね。」
「へえ、そうなんだ。」
「後日、女房が、お礼を言われたらしいよ。
『あの曲、うちの子大好きなんです。あれからCDを買ってきました。
音楽という方法があったんですね。
私もイライラしなくなりました。
ありがとうございました。』と。」
「よかったじゃないか。トラブルにもならず、しかも良い感じで終わって…」
「あの子のお母さんも困っていたんだろうなあ。俺の笛も少しは、役立ったってことかなあ?」
「ま、笛の音は、結構響くから、今度は、お前が近所迷惑にならないようにな。」
「そうだな。」
「さあ、新しい曲を練習しようぜ。」
その後、半年余り過ぎたころ、
その子は、施設に入ったと、友達は言っていた。